
有機肥料の堆肥
「山奥で有機農法によるコーヒー栽培を三十年も続けているドイツ人がいる
。見に来ないか」
ことコーヒーに関してなら、それこそ万難を排して、というたちの私に、メ
キシコの友人から
情報が寄せられた。早速、私はメキシコに。場所は、メキシコ市から1000
kmも離れたタパ
チマラ。ガテマラとの国境近く、標高1500メートル前後の山岳地帯だ。
さながら川底の岩の道を四輪駆動のジープが走る。その道の奥深く、密林の
谷間に突然、独立
王国のようなコーヒー農園が現れた。ここは、一帯の自然を利用した、自家用
の水力発電と水道
を持っている。牛の排泄物を発酵させて得る燃料ガス設備もある。有機農法で
野菜やトウモロコ
シも作り、農園主のドイツ系メキシコ人の家族四人だけでなく、農園で働くイ
ンディオ達も家族
ぐるみ、ここで暮らし手入る。そのインディオ四十家族、三百になるという。
太陽の恵に感謝し、土を豊かにすることを基本と考え、化学肥料や農薬を否
定する。けれども
現代文明をすべて拒否する、などという単純な自然崇拝者の立場でなく、ドイ
ツ製の発電機に
コーヒー精選機など、要所にはしっかり投資し、機械化をする。そういう生き
方の農園主ピータ
ーさんが、「触ってごらんなさい」と農園の土を指さした。

農園社長ベルン・ピーター 農園会長ブラッド・ピーター 黒
々と柔らかいたい肥
黒々として柔らかい土。空気が十分入ってふかふかとし、土の香りがする。
もしかして、これは
食べられるのでは?そんなことも考えてしまう土だった。化学肥料を一切使わ
ず、有機肥料だけを
用いていると、土はこうなるという。「ここの農園では、バイオの技術を積極
的に使い、年間千二
百トンの有機肥料を生産し、消費しています。これを化学肥料で賄うと、五十
トンで済み、人件費
も安く抑えられます。でも、自然の力を活用して作る私たちの農作物のほうが
断然美味しい。それ
に、安全だし強い作物になります。」ここのコーヒーの木の収穫寿命は八十年
。化学肥料を使用す
ると、わずか七年で終わるという。
エルニーニョ現象で降雨が少なく、中南米のコーヒー生産五カ国では、コー
ヒー豆は、十五%の
減産になったという。
「でも、私の農園の木は元気です。エルニーニョの影響はありません」
農園主のピーターさんは、こう言って胸を張る。三十年来、有機農法でコー
ヒーを栽培している
から、コーヒーの木は強く、多少の干ばつにはびくともしないものになってい
るということだ。
ピーターさんの農園では、三百匹近いアヒルが自由に走り回っている。中国
で稲作の雑草取りに
アヒルを使っているのを知り、ここでもアヒル達に活躍してもらうことにした
という。アヒルはコー
ヒーの木下の雑草を食べるから、下刈りをする必要がなくなる。
また、アヒルの糞や抜け落ちた羽毛は肥料となり、土地を肥やすという。
雑草取りにアヒルを使う
コーヒー農園で下刈りの作業を担うアヒルの群。糞は大切な有機肥料だ。
畑には豆科のクローバーを植えている。クローバーは根に根粒細菌が付く。
この菌は、クローバーから
炭水化物を受ける代わりに、空気中の窒素を固定して供給し、共生する。とい
うわけで、クローバーは
有効な窒素肥料になる。
有機肥料の主役ともいえる堆肥(たいひ)の作り方の基本は、日本と変わら
ない。草、サトウキビ、
牛糞尿などを積み重ね、発酵させて作る。豆を取り出した後のコーヒーチェリ
ーの果肉部分に、残飯や
牛糞も加えたものを餌とし、大量のミミズを飼っている。ミミズの糞も良い肥
料となる。
こうして、ここでは種々の有機肥料を作り使っている。効率や短期の経済性
ということでは、化学肥料
のほうがはるかに有効だがと、ピーターさんは言う。「土中には無数の微生物
が生きていて、それらが
作物を育てています。化学肥料を使うと、それらは死んでしまう。肥料は作物
に直接与えるのでなく、
まず土中の微生物に栄養として与えるものでなければなりません」
ピーターさんの家の夕食に招かれた。青ピーマンとキュウリのサラダは歯ご
たえがあり、かみしめると
特有の甘みと香りが口の中に広がる。コーヒーは、ブルボン種、小粒の豆だが
、しつかりしたコクのある
味だ。コーヒーは人によって作られる 改めて思う。